個人事業主の方や、法人は日々の取引を帳簿を使って保管していると思いますが、この帳簿の保管方法が電子帳簿保存法によって紙ではなく、電子データでの保存が可能となりました。
そしてこの電子帳簿保存法、非常に内容が細かく複雑な上、改正が何度か行われてきております。
2022年1月からの改正はインパクトが非常に大きいので、その概要についてわかりやすく解説していきます。
目次
電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法は、かんたんに言うと、帳簿や領収書等をデータで保存して良いですよ。という制度です。
今までは、例えば領収書を紙で7年間保管する必要がありました。
「紙で7年間保管するなんて邪魔すぎる!」
「紙で置いたら日焼けして何が書いてあるか分からなくなる!」
という意見はあったかと思います。
実際、税務署としても調査する際に、電子データの方が検索しやすいですし、
紙だと日焼けして記載内容が見えなくなるという事も少なくなるので、少しずつ電子データでの保管も認められてきていました。
しかし、電子データの場合は改ざんのリスクなどがあるので、改正を繰り返しながら少しずつ移行していっている
という状況なのです。
様々な条件はありつつ、現在ではスマートフォンで撮影した領収書も認められるようになっています。
このように写真データやスキャンデータの保存を、スキャナ保存と言います。
大きな改正3つ
1.事前承認制が無くなった!
以前は、この電子データ保存などをする場合、事前に国税庁への承認が必要でした。
しかし、今回の改正によって、この事前承認が廃止になり、届け出で良くなったのです。
また、もし確定申告にミスがあって、実際の税金よりも少ない金額で申告してしまっていた場合、
過少申告加算税というものが加算されるのですが、これは本来10%なのですが、
国税庁の指定する条件を満たす電子帳簿に関しては、優良な電子帳簿として、この過少申告加算税が5%になります。
電子帳簿で保存をすることを当たり前にしたい!という国税庁の意図が感じられますね。事前承認を廃止して、どんどん電子帳簿化させて欲しいという事だと思います。
2.一部タイムスタンプ廃止!
帳簿や領収書などの電子保存はリスクがあります。前述した通り、改ざんなどです。
利益を低く見せる為に売上データを削除したり、経費を水増ししたり、税金を払わないようにするためにデータを改ざんされてしまっては、税務署としては困ります。
ですので、電子データになって改ざんが増えないように、例えば紙の領収書を電子データでスキャナ保存などする際に、タイムスタンプ機能を備えたスキャン方法で保存する必要があります。
タイムスタンプとは、総務省によると
ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術
出典:総務省
という事なので、スキャナ保存はタイムスタンプ機能がついているスキャナでないと、認められないというルールになっています。
しかし、今回の改正では、画像データの修正ができなかったり、削除履歴が残るような会計ソフトなどを使用する場合には、このタイムスタンプは使う必要がなくなりました。
3.電子取引の領収書は紙保存不可!
今回の改正でおそらく一番大きなポイントはここになります。
もちろん、電子帳簿保存法は電子帳簿を推進する法律なので、紙での保存は推奨されていませんが、紙の領収書はそのまま紙で保存することは可能です。
しかし、今回の改正では、インターネット決済など、電子取引の領収書に関しては、領収書データを印刷して、紙で保存する事ができなくなります!
例えばAmazonや楽天市場などで商品を購入した場合、領収書をダウンロードできますが、そちらの領収書はデータのまま保管しておく必要があります。
今まで紙で保存をしていた方は、注意が必要です。
また、電子取引をデータ保存する際には厳格な要件があります
非常に、わかりづらいですね。
ポイントは2つです。
1.改ざんできない内容になっているか?
2.求められたらすぐデータを出せるか?
簡単に言えば、上記の2つになります。
ただタイムスタンプ付きで保存すれば良い、というだけでなく規則性を持って、検索機能がある形で、検索できる形で保存しなければ認められないという事です。
検索機能は小規模事業者の場合は不要という事ですが、求められたらすぐに出せるようにしておく必要があるという事です。
法人だけでなく、個人も対象
電子帳簿保存法の改正は、法人だけでなく、個人事業主も対象になります。
昔は、白色申告であれば帳簿の保存は義務ではありませんでしたが、今は帳簿の保存は義務化され、青色申告の場合には65万円の控除を受ける為には優良な電子帳簿だけになります。(参考:国税庁HP)
優遇を受けながら確定申告をするためには、実質会計ソフトの利用は必須になりそうですね。
法人の場合は、会計担当がいたり、税理士に頼まれている方も多いかと思うのですが、個人事業主の方に関してはご自身で帳簿作成や、確定申告をされている方も多いのではないかと思います。
電子帳簿保存法はどんどん改正されていっているので、「知らないうちにこんなルールになっていたのか!」と改正に気づかない方も多いのではないでしょうか?
コロナの影響で、副業やご自身で開業される方も多くなっているかと思います。
間違ったやり方でやり続けて、知らなかったでは済まされませんので、お早めに専門家にご相談される事をお勧めします。
電子帳簿保存法の今後について
あくまで推察ですが、電子帳簿保存法は、「電子保存して良いですよ」というルールから、「電子保存しないとダメですよ」というルールに変化していく可能性があると思います。
紙の領収書保存に関しては、現状認められていますが、もしかしたら紙の領収書保存自体も認められなくなるかもしれません。
また、税務調査の際にすぐに提出できるようにという観点もどんどん厳しくなると思います。ご自身での管理はいよいよ難しくなると思いますので、頼まれる税理士や、使用する会計ソフトによって、管理のしやすさが大幅に変わってきそうですね。
最近では、クラウド上にデータ保存できる会計ソフトも増えてきているので、そういったものを活用していけば、ご自身でデータ保存の管理をする必要もありません。クラウド上に保存すれば、データ管理は会計ソフトの会社が代わりにやってくれます。
領収書もアプリ上の撮影機能を使って、写真で撮影すれば、そのままタイムスタンプが付与されて保存、という形になります。
会計ソフトの中でも、今後の電子帳簿保存法に対応しているソフトと、そうでないソフトで使いやすさが大きく分かれてきそうですね。電子帳簿保存法に追い付いていないソフトは淘汰されて行ってしまうかもしれません。
電子帳簿保存法の改正と同時に決済システムもどんどん変化していくのでしょう。キャッシュレス化が進み、現金決済はどんどん減っていくと思います。
経済産業省によると、2016年時点で日本のキャッシュレス比率は19.9%と、1位の韓国の96.4%と比較すると大きくかけ離れています。そして、これは2025年には40%程度にするという目標を掲げています。(経済産業省:キャッシュレスの現状及び意義2020年1月)
それに伴い、紙の領収書もどんどん減り、電子領収書への移行が進んで行くでしょう。今まで現金決済のみ、紙の領収書のみだった店舗は、キャッシュレス、電子領収書への移行が求められる時代になっていくと思います。